肝所を見つけて行動計画へ【生産性向上シリーズ 第5回】

前回のおさらい

第1回で「成果=分子をはっきりさせる」ことを出発点とし、第2回で「事実で捉える」力を身につけ、第3回で「鷹の目と5マス」で本質的な課題を見つけ、第4回で「判断のモノサシ」を手に入れました。ここまでで、「何を目指すか(成果)」「何が問題か(本質的な課題)」「何を基準にするか(判断のモノサシ)」が揃いました。

では、いよいよ「どうやるか」です。「マニュアルを整備しよう」「チェックリストを増やそう」── そう考えがちではないでしょうか。しかし、手順書を分厚くすれば品質が上がるかというと、そうではありません。福祉サービスの特性(相手と一緒につくる・やり直しがきかない・人によってばらつく)がある以上、すべてをマニュアルで規定することは不可能です。

そこで大切になるのが「肝所(かんじょ)」です。肝所とは、成果を果たすために「本当に大事な一点」── 考え方のコツ、判断の要、動きの核。マニュアルには書ききれないけれど、これを知っている人と知らない人で品質が大きく変わる、その一点を見つけ出すこと。これが第5回のテーマです。

この回のねらい

① 「肝所」とは何かを理解する ── 型・コツ・細かい手順の違いを体感する

② 福祉現場の事例で肝所を体感する ── 自分の現場で「肝所はどこか」を探す目を養う

③ 「見える化」の本質を知る ── チェックリストを増やすことではなく、異常・進捗・振り返りを回すこと

④ 行動計画を書くときの4つの原則を身につける ── 筋の通った計画をつくる

カレーに学ぶ「3つの階層」

肝所を理解するために、まずカレーをつくることで考えてみましょう。

第1階層
大まかな手順

品質がばらつく

第2階層
肝所・コツ ★

品質安定の核

第3階層
細かい手順

考える力を奪う

第1階層(大まかな手順):「ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎを切って、炒めて、水を足して、カレー粉を入れて、煮込む」── 誰が読んでもできます。でも品質がバラつきます。

第2階層(肝所・コツ)★ここが品質を決める:「ジャガイモは5mm角で揃えないと、火通りが不均一でホクホク感が出ない」「玉ねぎは透き通るまで炒めることで、深い甘みが出る」── これは「なぜそうするのか」という考え方・判断の基準です。これを知っている人と知らない人で品質が大きく変わります。

第3階層(細かい作業手順):「まな板は清潔に、包丁は研いでおく。鍋は底が平らなものを使用。IHの場合は……」── 細かい指示は多ければ多いほど、考える力を奪います。

つまり、型を身につけるとは「肝所を理解すること」なのです。

福祉現場の肝所を体感する

肝所とは、成果を果たすために「本当に大事な一点」

考え方のコツ・判断の要・動きの核を指します

食事介助の場面

第1階層(型):「スプーンは浅く盛る。一口分の量で、口の温度に合わせて提供する。飲み込めたことを確認してから次の一口」

第2階層(肝所):「その人の飲み込み能力を見極めること。これができていれば、一口の量や速度は個人に合わせて応用できる。飲み込み能力の判断を間違えると、誤嚥のリスクが一気に高まる。だから観察が肝所になる」

肝所を知っている職員は「いつもより反応が遅い」という小さな変化を察知してスピードを落とします。品質の差は、ここで生まれます。

情報共有の場面

型だけ:マニュアルに書いてある情報項目(時間、出来事、対応)をすべて報告する

肝所:相手が「判断や対応」をするために必要な情報を選別する。「この情報があれば、次の対応が判断できる」という優先順位をつけること

更衣介助の場面

型だけ:手順どおりに脱ぎ着させる。時間が決まっている

肝所:本人の気持ちや羞恥心、その日の体調や機嫌を読む感度。「急いだらダメだ」「ここは本人の気持ちを優先すべき」という判断基準

これらに共通しているのは、「型を超えて、相手を読む」「判断を要求される」「応用する力が求められる」ということです。肝所を共有しているチームは、状況に応じて臨機応変に対応でき、品質が安定します。

見える化の本質

肝所が見つかったら、それをチームに定着させる必要があります。ここで出てくるのが「見える化」です。ただし、よくある誤解があります。「チェックリストをもっと増やす」「記録項目を増やす」── でもそれは第3階層(細かい作業手順)を増やしているだけで、肝所の共有にはなりません。

見える化の本質は、「肝所を中心に見える化すること」です。具体的には、3つのレベルがあります。

異常を見える化する。 肝所が「食事介助での飲み込み能力の観察」なら、見える化は「いつもと違う兆候」を記録すること。「嚥下に時間がかかった」「むせた」「食事に集中できていない様子」。肝所に関わる異常サインを見逃さない一点を見える化します。
進捗を見える化する。 チーム全体が「肝所をつかめているか」を見える化します。新人職員が肝所に到達するまでにどのくらいの期間が必要か。誰が肝所を理解していて、誰がまだ型の段階か。
振り返りを見える化する。 実行した後、「肝所はどう機能したか」を振り返ります。品質が安定したか、新しい工夫が必要か、他の場面にも応用できそうか。

つまり見える化とは「チェック項目リスト」ではなく、「肝所を中心に、異常・進捗・振り返りの3つを回す仕組み」なのです。

行動計画を書く4つの原則

肝所が見つかり、見える化の考え方もわかった。では、それを具体的な行動計画に落とし込みましょう。

まず成果を書く。 行動計画の最初に書くのは「やること」ではなく「成果」です。「マニュアルを更新する」ではなく「食事介助の品質がチーム内で揃い、安全性が向上する」。成果を先に決めないと、行動が走り出してしまいます。
肝所を中心に。 その成果を果たすために「一番大事なのは何か」を書きます。肝所を軸に、その後の手順や確認事項を組み立てます。
最初の一歩は具体的に。 「研修をする」「マニュアルを作る」ではいつまでも動き出しません。「○月○日に、食事介助の工程を一緒に見て、飲み込み能力の観察ポイント3つを現場で確認する」── 「誰が、いつ、何を」が明確に決まっていることが大切です。
迷ったら成果に立ち返る。 あれもこれもやりたくなったとき、「これは、その成果を果たすために本当に必要か?」と問い直す。成果という羅針盤があれば、判断がぶれません。

ワーク:行動計画を書いてみよう

ステップ1:成果を言葉にする

あなたの部署・施設で「改善したい」と思っていることを1つ選び、「改善した結果、どうなっていればいいか」を成果として言葉にします。

例)「申し送りがもっと正確に、短い時間で終わる」

ステップ2:肝所を探す

「誰の判断が、一番品質を左右するか」「ここを外したら、成果が果たせないのは?」── これが肝所です。

ステップ3:最初の一歩を決める

「最初に、この一点をやる」という具体的な行動を決めます。

例)「○月○日に、現場で肝所について一緒に確認する」

ステップ4:見える化の仕組みを決める

「やったか・やっていないか」だけでなく「効果が出ているか」を振り返る仕組みが大切です。

例)「3ヶ月後に品質がどう変わったかを振り返る」

第5回のまとめ

✅ 型を身につける=肝所を理解すること。大まかな手順(第1階層)だけでは品質がバラつく

✅ 肝所(第2階層)とは「考え方のコツ・判断の要・動きの核」── 相手を読み、応用する力

✅ 見える化=「チェック項目を増やす」ことではなく、肝所を中心に「異常・進捗・振り返り」を回すこと

✅ 行動計画の4原則:❶成果を書く ❷肝所を中心に ❸最初の一歩は具体的に ❹迷ったら成果に立ち返る

ここまでで、全6回の道具がすべて揃いました。次回の最終回では、これらの道具を事例で通しで使い、「回し続ける仕組み」をつくります。

第5回の内容を動画でも確認できます。

▶ 動画で第5回の概要を見る(YouTube)

※ YouTubeが別タブで開きます

次回予告
第6回「事例で追体験・回し続ける」

第5回までで、「成果を決める → 事実で捉える → 鷹の目で本質を見る → 判断のモノサシを持つ → 肝所を見つけて動く」という一連の流れを学んできました。第6回は、ここまでのすべてを「事例を通じて追体験する」総まとめの回です。そして、1回きりで終わらせない「回し続ける仕組み」をつくります。

次回までに:「第5回で学んだフロー図ツールを、実際に1巡やってみてください」── 課題を1つ選び、成果→肝所→具体的な行動→見える化、の流れを書いてみてください。

ご質問・ご相談はお問い合わせページからどうぞ。

福祉経営事務所 infofukushikeiei@gmail.com

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