前回のおさらい
第1回では、生産性とは「分数式」で捉えるものだと確認しました。
大切なのはアウトプット(成果)から考えること
「インプットを減らす」だけでは、サービスの質が下がりかねません。
まず「果たしたい成果」を言葉にし、プロセスを整える。これが福祉における生産性向上の考え方です。
大切なのは、まず分子(成果)をはっきりさせること。そして福祉サービスは「人と人」でつくるものだから、成果が見えにくい。だからこそリーダーが成果を言語化し、現場の主導役になる必要がある── というところまでお話ししました。
では、リーダーが「うちの成果はこれだ」と言語化したとして、それをチームで共有し、みんなで同じ方向を向いて動くには、何が必要でしょうか。
それが今回のテーマ、「事実で捉える」ということです。
① 「事実」と「意見」を分ける ── チームで合意形成するための土台をつくる
② 現場を見渡す「3M」を手に入れる ── 漏れなく現場を捉える切り口
③ 具体と抽象を行き来する力に触れる ── 共通の根っこを見つけるための考え方
なぜ「考え方の土台」が必要なのか
組織で動くには合意形成が欠かせません。一人で完結する仕事なら自分の判断で進められますが、チームで動く以上、「なぜこれをやるのか」「何を優先するのか」について、メンバーの間で認識を揃える必要があります。
ところが、モノサシ(共通の判断基準)がないと、それぞれが「自分の正しさ」で判断することになります。経験の長い職員は「昔からこうやってきた」と言い、新しい職員は「もっと効率よくできるのに」と思う。どちらも悪気はないのに、議論がかみ合わない。
それぞれが「自分の正しさ」で判断
→ 議論がかみ合わない
→ 「人」を責める議論になりがち
同じ土台(事実)で判断
→ 「仕組み」を直す議論に進める
→ 合意形成がスムーズに
・「事実」と「意見」を分ける力
・現場を3つの切り口(3M)で見渡す力
・目の前の出来事を一段高く見る力(具体⇔抽象)
合意形成の前提として必要なのは、まず「何を見ているか」を揃えること。同じ現場にいても、見ているものが違えば結論も変わります。そこで最初に取り組みたいのが、「事実」と「意見」を分けることです。
「事実」と「意見」を分ける
「うちの現場は大変だ」── これは事実でしょうか、意見でしょうか。
これは意見です。「大変」という言葉には、その人の感じ方が入っています。では、同じ状況を事実で表すとどうなるか。
| 意見(主観が入っている) | 事実(誰が見ても同じ) |
|---|---|
| 「職員が少なくて現場が大変だ」 | 「夜勤帯のコールが1時間に平均12回ある」 |
| 「利用者さんが楽しそうじゃない」 | 「レクに参加する人が先月より3人減った」 |
| 「このマニュアル、使えない」 | 「マニュアルの最終更新が2年前で、現行手順と5箇所異なる」 |
| 「情報が全然伝わっていない」 | 「申し送りノートの確認印が、今週5人中2人しかない」 |
なぜこの区別が大事なのか。
意見はぶつかりますが、事実は共有できます。「大変だ」と言い合っても平行線ですが、「コールが1時間に12回」という事実を共有すれば、「じゃあどう対策するか」と仕組みの話に進めます。
事実を土台にすることで、「人を責める議論」から「仕組みを直す議論」に変わる。これが、事実と意見を分ける一番の目的です。
第1回で確認した「分数式」に当てはめると、事実を把握することは分母(インプット=今のやり方)の現状を正確に捉えることにあたります。成果(分子)をはっきりさせたら、次は現状のやり方を事実で見る。そうすることで、「何を変えるべきか」が見えてきます。
現場を見渡す3つの切り口「3M」
事実を集めるといっても、思いつくままに見ていては抜け漏れが出ます。そこで便利なのが「3M」というフレームワークです。これは何のためにあるかというと、現場を漏れなく見渡すための「型」です。
誰が、どんなスキルで、どう動いているか
職員の配置、動き方、習熟度、担当の偏り
どんなツール・設備を使っているか
施設の構造、車いす、記録システム、調理器具
どんな手順・ルールで進めているか
支援手順、申し送り方法、カンファレンスの進め方
「なんとなく大変」が「ヒトの問題なのか、道具の問題なのか、やり方の問題なのか」に整理されます。
たとえば「夜勤が大変」という声に対して:
ヒト: 夜勤の配置は何人? 経験年数のバランスは?
道具: ナースコールの音は適切か? 記録は手書きか端末か?
やり方: 巡回の頻度・ルートは決まっているか? 緊急時の手順は明文化されているか?
こうして事実を3つの軸で整理すると、「何を変えれば改善するか」の手がかりが見えてきます。3Mは「現場を診る聴診器」のようなものだと考えてください。
もう一つの大事な考え方「具体⇔抽象」
事実を集め、3Mで整理したら、もう一つ大事な考え方があります。目の前の出来事(具体)を、「一段高く」見る(抽象化する)ことです。これは何のためにやるかというと、個々の問題をモグラ叩きで終わらせず、共通の根っこを見つけて仕組みとして解決するためです。
たとえば、こんなことが起きたとします。
・Aさんの入浴介助でヒヤリハットがあった。
・Bさんの食事介助で家族からクレームがあった。
・Cさんの移乗支援でケガが発生した。
一つひとつを個別に対応する(モグラ叩き)こともできます。でも、一段高く見ると「引き継ぎ時の情報共有が不十分」という共通の根っこが見えてくるかもしれません。
具体の出来事に共通する「根っこ」を見つけることで、1件1件のモグラ叩きから卒業し、仕組みとして解決できるようになります。
ただし、この「一段高く見る力」は簡単ではありません。次回の第3回で「鷹の目」という考え方を使って、この力をじっくり身につけていきます。今回は「事実を集めたら、バラバラのまま終わらせない。共通点を探す目を持つ」ということだけ、頭に入れておいてください。
ワーク①:事実と意見を分けてみよう
あなたの現場で「大変だ」「困っている」と感じていることを1つ選んでください。それを「意見」と「事実」に分けてみましょう。
| 意見(今の言い方) | 事実に書き換えると? |
|---|---|
| 例)「記録に時間がかかりすぎる」 | 「1件の支援記録に平均15分かかっている」 |
| あなたの困りごと → |
書き換えるときのコツは、「数字」「回数」「日付」「人数」など、誰が見ても同じ情報を使うことです。
ワーク②:3Mで見渡してみよう
同じ困りごとを、3Mの切り口で整理してみましょう。
| 切り口 | 現場で何が起きている?(事実で書く) |
|---|---|
| Man(ヒト) | 例)記録担当が特定の2人に偏っている |
| Machine(道具) | 例)記録ソフトの入力画面が複雑で、選択肢が多すぎる |
| Method(やり方) | 例)記録のタイミングが決まっておらず、まとめて書いている |
3つの軸で整理してみると、「何が問題の本体なのか」が見えやすくなります。ヒトの問題だと思っていたことが、実はやり方の問題だった、ということもよくあります。
第2回のまとめ
✅ 組織で動くには合意形成が必要。そのために「事実」という共通の土台が要る
✅ 「事実」と「意見」を分けることで、「人を責める議論」から「仕組みを直す議論」に変わる
✅ 3M(ヒト・道具・やり方)で現場を漏れなく見渡す── これが現場を診る「聴診器」
✅ 集めた事実をバラバラで終わらせず、共通の根っこを探す目を持つ
分数式に当てはめると、今回は主に分母(インプット=今のやり方)を事実で捉える力を身につけました。成果(分子)をはっきりさせ、現状のやり方(分母)を事実で捉えた。次は、その事実を「一段高く」見て、本質的な課題を見つける力を身につけます。
第2回では、事実で現場を捉えるための道具を手に入れました。でも、事実を集めただけではまだ「どこから手をつけていいか」がわかりません。第3回では、集めた事実を「鷹の目」で俯瞰し、バラバラに見える問題の共通の根っこを見つける力(概念化スキル)を身につけます。そして「5マス思考地図」という実践ツールを使って、現場の事実から果たしたい成果まで、一本の筋で整理する方法を学びます。
次回までに考えてみてください。
「職場の困りごとを1つ選び、”意見”を”事実”に書き換えてみてください」── やってみてから第3回をお読みください。
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