事例で追体験・回し続ける【生産性向上シリーズ 第6回】

前回までの振り返り ── 全6回でつくってきた道具

全6回のシリーズも、いよいよ最終回です。ここまで5回にわたって、福祉現場のリーダーが生産性向上に取り組むための道具を一つずつ積み上げてきました。

1
「前提を揃えるために、生産性の本質を知る」── 生産性は分数式:アウトプット÷インプット。ロボット導入ではなく、まずこの分数式を思い出すこと。
2
「チームで合意形成するために、事実で捉える」── 事実と意見を分け、3M(ヒト・道具・やり方)で現場を見渡す。事実を土台にすることで「人を責める議論」から「仕組みを直す議論」に変わる。
3
「本質的な課題を見つけるために、鷹の目で見る」── バラバラの出来事を一段高くから眺めて共通の根っこを見つける。5マス思考地図で事実と成果を一本の筋でつなげる。
4
「現場の判断がぶれないために、モノサシを持つ」── スローガンではなく「場面で語れる言葉」にまで詰める。5つの価値観がぶつかる場面で「何を優先するか」を語り合う。
5
「実行できる計画をつくるために、肝所を見つける」── 型(第1階層)ではなく肝所(第2階層)を共有する。行動計画の4原則:成果→肝所→最初の一歩→成果に立ち返る。
この回のねらい

① 事例を通じて全6回の道具を通しで使ってみる ── 「道具がつながって動く感覚」を体感する

② 回し続ける仕組みをつくる ── 1回きりの改善では現場に定着しない。生産性向上委員会で継続させる

事例で追体験:訪問介護事業所の「情報共有」改善

ある訪問介護事業所では、利用者さんの情報が職員間で十分に共有されず、サービスの質にバラつきが生じていました。この課題を、第1回から第5回の視点で順にたどってみましょう。

1回
分数式
2回
事実
3回
鷹の目
4回
モノサシ
5回
肝所
第1回の視点:分数式で考える

分子(成果):利用者さんが安心してサービスを受けられる状態 / 分母(今のやり方):申し送りと記録の仕組み

しかしここで「申し送りのやり方を変えよう」とすぐに手段に走ってはいけません。まず確認すべきは「そもそも申し送りは何のためにやっているのか」「果たしたい成果は何か」です。

第2回の視点:事実で捉える
記録率(日々の記録は定時に完了しているか) 実績:80%
申し送り時間(1日平均) 実績:15分
重要情報の引き継ぎ漏れ(月) 実績:3〜5件
申し送りの目的を理解している職員の割合 実績:60%

事実から見えてくるのは、時間不足が問題なのではなく、「何を・どのレベルで・なぜ共有するのか」の基準が曖昧だということです。

第3回の視点:鷹の目で見る
利用者さんの状態 → 訪問時に気づく(感覚的な判断) → 記録する(時間や見落としで情報が欠ける) → 申し送りする(優先度が不明確) → 次の職員の訪問(情報不足で対応が遅れる)

鷹の目で見えてくるのは、情報が「点」で終わっていて流れが止まっていること。個人の問題ではなく「情報品質を保証する仕組み」がないことが本質的な課題です。

第4回の視点:判断のモノサシ

記録の粒度:「何があったか」だけでなく「なぜ・どう対応したか」まで書く

申し送りの優先度:次の職員が「必ず知るべき情報」(利用者さんの安全やQOLに関わること)を先に伝える

記録のタイミング:訪問から24時間以内、可能な限り当日中

第5回の視点:肝所を見つけ、行動計画へ

肝所は「何を・どのレベルで・なぜ共有するのか」という基準を全職員で実行できる仕組みをつくることです。

最初の一歩:月末の全体会議で「良い申し送り・記録」の定義を合意すること。翌月から新しいテンプレートを試行し、2週間ごとに現場の声を集めて振り返る。

こうして、第1回から第5回の道具が一つの事例の中でつながって動きます。

生産性向上委員会を立ち上げよう

ここからが最終回の核心です。ここまで学んだ道具を「1回きり」で終わらせないために、回し続ける仕組みをつくります。改善を日常業務の中に組み込むためです。特別なイベントとしてではなく、毎月の会議の中で自然に改善が回る仕組みをつくる。それが生産性向上委員会です。

目的

組織全体で継続的に課題を見つけ、改善を重ねるための恒常的な組織です。

メンバー構成

管理者(リード)、各部門・シフトの代表職員、事務・事業管理の担当者

月1回の会議の流れ
【1】前月の改善実装状況の確認 ── やったか・やっていないかだけでなく、効果が出ているかを事実で振り返る
【2】新しい課題の提案・優先度付け ── 判断のモノサシを使って、何を優先するかを決める
【3】肝所を絞り込み、改善案を立てる ── 鷹の目で本質を見つけ、肝所を軸に改善案を組み立てる
【4】最初の一歩を決める ── 誰が・いつまでに・何をするかを具体的に決める
【5】翌月への実装計画を確認 ── フロー図ツールで全体の流れを見える化する

回し続けることが力になる

最初の改善案は、必ずしも完璧ではありません。大切なのは、以下のサイクルを回し続けることです。

試す
測る
振り返る
改善する
また試す

1巡目で完璧を目指さなくて構いません。むしろ、1巡目で出た「気づき」が2巡目の改善をより良くします。このサイクルを回し続けることで、組織の生産性向上は加速していきます。

全6回の学びチェックリスト

これまで6回で学んできたことが、あなたの中に定着しているか、確認してみましょう。

第1回「前提を揃える」

☐ 「生産性」と聞いたら、分数式(成果÷手順)がパッと浮かぶようになった

☐ ロボット・ICT導入=生産性向上ではないことを、自分の言葉で説明できる

第2回「事実で捉える」

☐ 「意見」と「事実」を区別して話すことを意識するようになった

☐ 3M(ヒト・道具・やり方)で現場を見渡すことができる

第3回「鷹の目で見る」

☐ バラバラの出来事に共通する根っこを探す目が身についた

☐ 5マス思考地図で事実と成果を一本の筋で整理できる

第4回「モノサシを持つ」

☐ チーム内で「場面で語れる言葉」での判断基準を持っている

☐ 5つの価値観がぶつかる場面で、チームで語り合うことができる

第5回「肝所を見つける」

☐ 現場の課題の中から、肝所(本当に大事な一点)を絞り込める

☐ 行動計画の4原則(成果→肝所→最初の一歩→成果に立ち返る)で計画を立てられる

第6回「回し続ける」

☐ 改善を継続する仕組み(委員会・会議)をつくることの大切さが理解できた

☐ 「1巡で完璧を目指さず、回し続ける」ことの価値を実感している

すべてにチェックがつかなくても大丈夫です。チェックがつかない項目こそ、次に取り組むべきポイントです。

おわりに

研修はゴールではなく、スタート

この6回のシリーズで学んだことは、すべて皆さんの現場で実践するための道具です。最初は、ぎこちなく感じるかもしれません。うまくいかないこともあるでしょう。それは当たり前です。大切なのは、そこから何を学び、次に活かすかです。

一人では難しい。だから、一緒に。

生産性向上は、個人の努力では成り立ちません。組織全体が同じ「ものの見方」を持ち、共通言語で課題に向き合うことで初めて実現します。

わからないことがあれば、遠慮なくお問い合わせください。うまくいった事例があれば、ぜひ教えてください。困っていることがあれば、一緒に考えましょう。これからも、一緒に歩みます。

第6回の内容を動画でも確認できます。

▶ 動画で第6回の概要を見る(YouTube)

※ YouTubeが別タブで開きます

ご質問・ご相談はお問い合わせページからどうぞ。

福祉経営事務所 infofukushikeiei@gmail.com

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