前回のおさらい
第2回では、チームで合意形成するために「事実で捉える」ことを学びました。「事実」と「意見」を分けること。3M(ヒト・道具・やり方)で現場を漏れなく見渡すこと。この2つの道具を使って、「なんとなく大変」だった現場の状況を、誰が見ても同じ事実として把握できるようになりました。
しかし、事実を集めただけでは「どこから手をつけていいか」がまだわかりません。Aさんの入浴でヒヤリハットがあった。Bさんの食事で家族からクレームが来た。Cさんの移乗でケガが発生した。── 一つひとつを個別に対応していると、いつまでもモグラ叩きのままです。
今回は、集めた事実を「一段高く」見て、バラバラに見える問題の共通の根っこを見つける力を身につけます。これが「鷹の目」です。そして、現場の事実から果たしたい成果まで一本の筋で整理する実践ツール「5マス思考地図」を手に入れます。
① 「鷹の目」で見る力を養う ── 共通の根っこを見つけて仕組みとして解決する
② 5マス思考地図を手に入れる ── 現場の事実から果たしたい成果まで一本の筋で整理する
③ 「成果」の本質をもう一度確認する ── 「やったこと」と「成果」の違いを捉え直す
「鷹の目」で見る(概念化)
第2回で学んだ3Mを使って事実を集めると、現場のさまざまな出来事が見えてきます。でも、出来事を並べただけでは、「結局どこが問題なのか」がわかりません。ここで必要になるのが、「鷹の目」で見る力です。
たとえば、こんなことが起きているとします。ある職員は「利用者さんが突然大きな声を出してしまった」という事実に直面します。別の職員は「申し送りで情報を受け取っていなかった」という事実を経験します。また別の職員は「支援計画の内容が周知されていなかった」と気づきます。
一見、バラバラの出来事です。しかし、一段高い場所から眺めてみると──「引き継ぎの手順が整っていない」「情報共有の仕組みがない」「みんなが知るべき情報が、ちゃんと伝わっていない」── という共通の根っこが見えてきます。
この「一段高いところから全体を眺めて、個別の出来事に共通する本質を見つける力」を「概念化」と言います。鳥が空高くから地面を見渡すように、現場の出来事を俯瞰する。だから「鷹の目」です。
鷹の目が使えると、「これはAさん個人の問題じゃなくて、やり方・仕組みの問題だ」と気づけるようになります。個人を責めるのではなく、仕組みを直す。それが本質的な解決です。
5マス思考地図
鷹の目の考え方を、実際に使えるツールにしたものが「5マス思考地図」です。これは何のためにあるかというと、現場の事実から法人の課題、そして果たしたい成果まで、一本の筋で整理するためです。
記録に15分
毎日、夜勤担当
記録ルールが定まらず
員工の責任体制
統一した記録・時間緊短
第1マス「現場の事実」 3Mで見た、目の前の具体的な出来事です。「夜勤で利用者さんが何度もナースコールを押している」「記録に15分かかっている」など。ここは第2回で学んだ「事実で捉える」力を使います。
第2マス「よく起きること」 その事実が、どれくらい繰り返されているか。「同じようなことが週に何度も起きている」「複数の利用者さんでこれが起きている」。単発の出来事なのか、パターンなのかを見極めます。
第3マス「共通の根っこ」 ここが「鷹の目」の出番です。複数の事実を一段上から眺めたときに見える、共通の原因。「引き継ぎの手順が定まっていない」「仕組みがない」「判断基準がない」。個別の出来事を束ねて、本質を見つけます。
第4マス「法人としての課題」 見つけた根っこは、自分たちの法人としてどんな課題を意味しているか。「職員が迷っている」「利用者さんへの対応がばらついている」「質が保証されていない」。ここで、現場の問題が組織の課題として言語化されます。
第5マス「果たしたい成果」 その課題を解決したとき、どんな状態になりたいか。これが「成果」です。「職員が自信を持って対応できる」「利用者さんが安心できる」「質が保証される」。
この5段階を一つ一つ丁寧に整理することで、「現場で起きていること」と「目指すべき成果」が一本の筋でつながります。5マスは、事実と成果をつなぐ橋渡しの道具なのです。
成果の本質をもう一度
5マス思考地図の一番右、「果たしたい成果」。ここを曖昧なまま終わらせないことが大切です。第1回で確認した分数式を思い出してください。
分子=「成果」が曖昧では、何を改善してもそれが「向上」したのかどうかわかりません。ここで、「やったこと」と「成果」の違いを改めて確認しておきましょう。
利用者さんの支援記録を書いている、カンファレンスを開いている、個別支援計画を立てている。これらはすべて「活動」です。しかし、その結果として「利用者さんが安心して過ごせるようになったか」「職員が迷わず判断できるようになったか」「地域に信頼されるようになったか」── ここまで達成されて初めて「成果」と言えます。
・安心して過ごせたか
・笑顔が増えたか
・自分で選べるようになったか
・自信を持てるようになったか
・判断を迷わなくなったか
・情悲の引き出しや回話が滲かるか
・家族が安心できるか
・地域に受け入れられているか
・信頼が厚いか
一つの成果を多面的に捉えることで、「何を果たせばよいのか」が鮮明になります。5マス思考地図の第5マスには、この3つの視点を意識しながら「果たしたい成果」を書いてみてください。
ワーク:5マス思考地図を埋めてみよう
あなたの現場で、最近困っていることを一つ思い浮かべてください。それを、5マス思考地図で整理してみましょう。
例)利用者さんが食事の時間に不安そうな表情をする
例)毎日の昼食時に、同じような様子が見られる
例)食事のメニューや流れを事前に伝えていない
例)利用者さんの安心感を高める工夫が足りていない
例)利用者さんが安心して食事を楽しめる環境
一つ一つ言葉にすることで、「何を変えればいいか」が見えてきます。まずは完璧を目指さず、自分の言葉で書いてみることが大切です。
第3回のまとめ
✅ 個々の問題をモグラ叩きで終わらせない。「鷹の目」(概念化)で共通の根っこを見つけ、仕組みとして解決する
✅ 5マス思考地図で、現場の事実から果たしたい成果まで一本の筋で整理する
✅ 「やったこと」=活動、「成果」=果たされた価値。この区別がすべての出発点
✅ 成果は3つの視点(利用者・支援・地域)から多面的に捉える
ここまでで、分数式の分子(成果)と分母(今のやり方)の両方を事実で捉え、本質的な課題を見つけるところまで来ました。では次に、日々の現場で判断するとき「何を基準にするか」── その判断のモノサシが必要になります。
成果が見え、本質的な課題もわかった。でも、現場では毎日無数の判断が必要です。「この対応は、利用者さんにとって良いのか」「ここは優先すべき課題か」「どこまでやるべきか」。これらの判断を、「人による」のではなく「基準による」ものにする。そのモノサシを、自分たちの組織の中でつくること。それが第4回のテーマです。
次回までに考えてみてください。
「あなたの現場の困りごとを5マス思考地図で整理してみてください」── やってみてから第4回をお読みください。
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