「書かせる」から「記録が必要になる仕事の仕方」へ
― 福祉現場の記録を「作業」から「支援の作法」に変える【第2回・解決編】
福祉現場の記録シリーズ 全3回
- 第1回:「記録を書かない職員」をつくっているのは誰か(状況編)
- ▶ いまここ 第2回:「書かせる」から「記録が必要になる仕事の仕方」へ(解決編)
- 第3回:記録を、人材育成の道具に変える(応用編)
前回のおさらい
第1回では、「職員が記録を書いてくれない」という困りごとを、構造から見ました。
記録を書いても、次の申し送りでもカンファレンスでも開かれない。すると職員は「これは出せばいいものだ」と学習します。人は、使われないものに時間をかけ続けられないからです。
ここから、どの法人でも似た輪ができあがります。
書かない → 管理者が注意する → 一時的に書く → 誰も使わない → 書く意味を感じなくなる → また書かなくなる
この輪の中に、悪意を持っている人は一人もいません。誰も悪くないのに、揃わない。
そして、書かない本人だけを見ていても、この輪が続く理由は分かりません。 書く時間がとれているか、同じことを別の様式に二重に書いていないか、書いたものが使われているか——どこが詰まっているかは、組織の側からしか確かめられません。
あわせて、「見る力」と「記録にするための支援」は別物だとお伝えしました。見えていても、言葉にする・入力するところで止まる人はいます。
今回は、その「記録にするための支援」を含めた、具体的な手順です。
この回のねらい
① 何を残すかを、先に決める ── 様式より前に決めるものがある ② 話したことを、記録に変える ── 書くのが苦手でも、利用者について話すことはできる ③ 記録を、次の会議の入口にする ── ただし、実施できなかった人を問いただす場にしない
変えるのは様式ではなく、仕事の流れ
先にお断りしておきます。これは「AIを使えば議事録が作れます」という話ではありません。
変えたいのは、こちらです。
記録を書く → 記録を使う → 次の支援を考える
この流れそのものです。様式を新しくしても、ここが変わらなければ、また同じ輪に戻ります。
図解 2 / 解決編
保存で終わる記録から、支援が続く記録へ。
違いは、書いた後。その記録を開いて、次の仕事に使うかどうかです。
保存で止まる
使って、試して、振り返る
「試せなかった」も振り返りの材料。理由を一緒に確かめ、担当や進め方を見直します。
次の会議を、「前回、その後どうでしたか」から始める。
そして、先に一つお伝えしておきます。この流れは、AIがなくても回ります。 何を残すかが決まっていれば、手書きでも埋まります。あとで道具の話も出てきますが、順番としては、仕事の流れを決めるほうが先です。道具は、決まったものを楽に回すために使います。
まず、対象を絞る
福祉施設には、膨大な記録があります。個別支援計画、日々の支援記録、ケース記録、ヒヤリハット、事故報告、委員会の記録、健康管理の記録——全部を一度に変えようとすると、まず間違いなく続きません。
今回は、次の場に絞ってお話しします。
- 業務日誌
- 申し送り
- 委員会
- カンファレンス
- 各種ミーティング
- 会議議事録
共通点は、職員同士が情報を持ち寄って、次の行動を考える場だということです。ここは「使われる記録」に変えやすく、変わったときの手応えも出やすい場所です。
① 何を残したいのかを、先に決める
いきなり「議事録を作りましょう」から入らないでください。その前に、法人として何を残したいのかを決めます。
例えば、こういう項目です。
- 前回決めたことは、実施されたか
- 実施してみて、どうだったか
- 利用者に、どんな変化があったか
- 職員が気づいた、小さな変化・違和感
- その変化について、確認できた事実
- 今回決めたこと
- 次回までに試すこと
- 担当者
- 期限
- 次回までに観察すること
- 継続して確認すること
この項目が決まると、会議そのものが変わります。「何を話せばいいか分からない会議」が、「この順番で埋めていけばいい場」になるからです。
逆に言うと、議事録が書けない会議は、たいてい会議の設計が決まっていないのだと思います。
② 「書く」だけでなく、「話す」を使う
文章を書くのは苦手でも、利用者さんについて話すことならできる。そういう職員さんは、たくさんおられます。むしろ、そちらが多数派ではないでしょうか。
であれば、その力を使わない手はありません。
ミーティングや申し送りでの会話を、適切なルールのもとで音声として残し、文字にして、整理する。生成AIなどの道具は、ここで使えます。
ただ、目的を取り違えないようにしたいのです。
目的は、職員をメモ取りから解放することではありません。
会議中にメモを取っている職員は、下を向いています。相手の話の途中で、自分の手元に集中しています。その時間を返して、
- 利用者について考える
- 仲間の話を聞く
- 小さな変化について話す
ことに使ってもらう。道具で浮かせた時間を、考えることに戻す。これが目的です。ここを外すと、単に「楽になった」だけで終わります。
③ AIには「議事録」ではなく、「次の支援に必要な記録」を作らせる
ここが実務上のポイントです。
AIに「議事録を作って」とだけ頼むと、目的や必要な項目を指定していないぶん、次の行動に必要な内容が抜けることがあります。 誰が何を言ったかは残っても、誰がいつまでに何をするのかが落ちている、という形です。
抜けさせないために、頼み方を変えます。何のための記録かと、必要な項目を、先に指定します。
【囲み:AIへの指示文サンプル】
このミーティングの内容を、単なる発言録ではなく、次の支援につなげるための記録として整理してください。
以下の項目に分けてください。
- 前回からの振り返り
- 利用者の変化
- 職員が気づいた小さな変化・違和感
- 実施した支援・関わり
- その結果、利用者にどのような反応・変化があったか
- 今回決めたこと
- 次回までに試すこと
- 次回までに観察すること
- 担当者・期限
- 継続して検討・確認する事項
発言に根拠がない内容を推測して補わないでください。 事実と、職員の解釈・推測は、可能な限り分けて整理してください。 判断できない内容は「確認が必要」としてください。
最後の三行を、特に外さないでください。
支援の記録で怖いのは、それらしく整った文章の中に、誰も言っていないことが混ざることです。読み手は、きれいな文章ほど疑いません。「推測で補わない」「事実と解釈を分ける」「分からないものは分からないと書く」——この三つを入れておくと、出てきたものを職員が確認しやすくなります。
そして、出てきた記録をそのまま確定させないでください。最後に人が確認する。 ここは省略できない工程です。
ただ、「みんなで気をつける」では実際には確認されません。誰が確認するかを決めてください。 その回の司会でも、記録担当でも構いません。会議の最後の5分でも、翌日でも構いません。決まっていることが大事です。
確認するのは、この4つです。
| 確認すること | 見るところ |
|---|---|
| ① 言っていないことが入っていないか | 元の発言・その場のメモと照らす |
| ② 決まったことと、案のままのものが混ざっていないか | 「〜する」と「〜してはどうか」を分ける |
| ③ 担当と期限が入っているか | 空欄なら、その場で埋めるか「未定」と書く |
| ④ 事実と、推測が分かれているか | 「〜だった」と「〜だと思われる」を分ける |
確認にかかる時間は、記録の量や、元の発言と照らし合わせる手間によって変わります。確認する量に応じて時間を確保してください。まずは短い議題から始めても構いません。
そして、AIへの指示文を丁寧にすることと、確認の担当を置くことは、どちらか一方では足りません。
④ 従来の議事録と、「支援につながる記録」の違い
言葉で説明するより、並べたほうが早いと思います。
【比較表:従来の議事録/支援につながる記録】
| 従来型の議事録 | 支援につながる記録 | |
|---|---|---|
| 書きぶり | ○○さんについて意見交換した。食事について注意して見守ることとした。 | 前回からの変化:夕食の主食摂取量が、3日続けて半量以下。 試したこと:夕食の席を、出入口横から窓側の角席へ変更(○月○日から)。 その後の様子:周囲を見渡す回数が減り、主食の摂取量は半量から8割へ。 ※席の変更によるものと確定したわけではない。同じ週に入浴日の変更もあった。 次回までに行うこと:窓側の角席を継続する。担当:△△ 観察すること:夕食時の摂取量(主食・副食)、離席の有無。記録先:業務日誌の所定欄 比べ方:変更前3日間と、変更後3日間の摂取量を並べる。 次回確認:○月○日のカンファレンス。確認者:□□ |
| 読んだ人ができること | 具体的な対応をそろえにくい | 次の勤務者が、同じ関わりを再現できる |
| 次回の会議で | 振り返る材料が不足する | 「窓側の席、その後どうでしたか」から始められる |
左は、間違っていません。会議はたしかに行われましたし、そう書いてあります。ただ、これを読んだ次の職員が、何をすればいいか分かりません。「注意して見守る」の中身が、人によって変わってしまいます。
右は、文章としては上手ではないかもしれません。でも、読めば次の行動が決まります。
きれいな文章を書くことが目的ではなく、次の支援に必要なものが残っているかどうか。 記録を見るときの基準を、ここに置き直したいのです。
右の書きぶりで大事なのは、細かさではありません。次の勤務者が同じことを再現できるか、そしてあとで比べられるかです。だから「席を変えた」ではなく「どこからどこへ」、「見ておく」ではなく「何を・どこに書くか」、「よくなった」ではなく「何と何を比べるか」まで置いています。
あわせて、分かっていないことは分かっていないと書いておく。上の例で「席の変更によるものと確定したわけではない」と添えているのは、そのためです。ここを曖昧にすると、次に別の利用者へ同じ手を当てはめてしまいます。
⑤ 次のミーティングは、必ず前回の記録から始める
ここは、いちばん効きます。そして、いちばん抜けます。
いい記録を作っても、保存して終われば「行き止まり」のままです。第1部の輪が、少しきれいな紙で回るだけになります。
ですから、次の会議はここから始めてください。
「前回、これを試すことになっていました。どうでしたか?」 「この変化を見ることになっていました。その後、どうですか?」
たった二つの問いですが、あるかないかで記録の意味が変わります。
この瞬間に、職員は「あの記録は読まれている」と知ります。
ただし、ここには一つ、気をつけたいことがあります。
「前回、これを試すことになっていましたが」と聞いたとき、「すみません、試せませんでした」と返ってくる回が必ずあります。ここでの返し方で、この時間の意味が決まります。
✕ 「どうしてやらなかったんですか」 ○ 「何が難しかったですか。担当や進め方を見直した方がよさそうですか」
できなかった理由は、たいてい本人の怠慢ではありません。その日にその利用者と関わる勤務に入っていなかった。他の業務が重なった。やり方が具体的に決まっていなかった。そこを一緒に見直すのが、この場の仕事です。
前回の記録の確認が「実施しなかった人を問いただす場」になると、次から誰も正直に言わなくなります。そうなると、記録はまた別の意味で使われなくなります。
もう一つ、気をつけたいのが、会議の結論が「継続」「承認」だけで閉じることです。
これは、どの法人でも起こります。議題としては処理されているので、進んでいるように見えます。でも「継続」の一言では、誰が・いつまでに・何を見るのかが残りません。次の会議で確認しようにも、材料がないのです。
「継続」で終わりそうになったら、一言だけ足してみてください。「継続として、次回までに誰が何を見ておきますか」。これだけで、記録が次につながります。
⑥ 管理者のフィードバックを変える
職員は、返ってきた言葉から学びます。
「まだ書いていませんね」 「提出してください」
これを繰り返すと、職員が学ぶのは「書くことが大事」です。提出さえすれば怒られない、ということも同時に学びます。悪気なく、そうなります。
返す言葉を、変えてみてください。
「この変化に、よく気づいたね」 「前回との違いが分かると、もっと良くなるね」 「"落ち着かなかった"って、具体的にはどんな様子だった?」 「この記録があったから、次の職員が対応を変えられたよ」
内容は違いますが、どれも「何を見るか」を伝えている言葉です。
記録の指導は、文章の指導ではありません。観察と振り返りの指導です。 ここを取り違えると「てにをは」を直す作業になり、職員は「文章が下手だから怒られた」と受け取ります。それでは見る力は育ちません。
特に四つ目が効きます。自分の書いたものが誰かの役に立ったという経験は、指示よりも強く残ります。
⑦ 最初から完璧を求めない
新しい項目を配った翌週に、全員がきれいに書けるようになる——ということは、まず起こりません。
最初は、こうです。
気づく → 話す → 記録する → 振り返る
これを、少人数でも、一つのユニットでも、月1回の会議からでもいいので、回してみる。回数を重ねるうちに、少しずつ形になっていきます。
ですから、これは新しい様式の導入ではなく、新しい仕事の仕方の習慣化として扱ってください。様式の導入なら、配った日が完了日です。習慣化なら、完了日はありません。そのぶん、途中で「まだできていない」と落ち込まずに済みます。
⑧ それでも記録しない場合は、指導する
ここは、はっきりさせておきます。
この記事は、「すべて仕組みのせいだから、職員に責任はない」という話ではありません。
- 何を書くのかを示した
- なぜ必要なのかを説明した
- 実際に、仕事の中で使った
- 書いたものに、フィードバックを返した
ただ、「説明した」ことと「書ける状態になっている」ことは、別です。 指導に入る前に、もう一段だけ確かめたいことがあります。
| 確かめること | 聞き方の例 |
|---|---|
| 時間 | 「いつ書いていますか。書く時間はとれていますか」 |
| 入力環境 | 「どこに、どうやって入力していますか。使いにくいところはありますか」 |
| 重複 | 「同じことを、別の様式にも書いていませんか」 |
| 理解度 | 「この欄には何を書けばいいと思っていますか」 |
ここで「実は申し送りと日誌に同じことを二度書いていた」「入力画面が開くのに時間がかかる」といったことが出てくることは、珍しくありません。それは指導で解決する問題ではありません。
こうした条件まで確かめたうえで、それでも決められた記録を行わないのであれば、そこは管理上の問題です。個別の指導が必要になります。
大事なのは、順番です。
「書かないから注意する」ではなく、 「書けるように育てる。そのうえで、それでもやらないことには指導する」。
順番が逆になっているとき、指導は職員に届きません。「何を書けばいいか分からないまま怒られた」という記憶だけが残ります。順番が合っていれば、指導は指導として成立します。
個人情報のことも、触れておきます
音声を残す、生成AIを使う——という話をすると、必ずこのご意見が出ます。
「個人情報があるから、できないのではないか」
この懸念は、軽く扱うべきものではありません。私たちが扱うのは、利用者の生活状況、心身の状態、支援の内容です。何でも録音して、どんなAIに入れてもよいなどということは、ありません。
一方で、「個人情報だからできない」と一律に結論づけてしまうのも、少し早いように思います。
実際に検討が要るのは、利用目的、録音の対象範囲、アクセス権限、保存場所、保存期間と削除方法、使うサービスと契約形態、そのサービス提供者がデータをどう扱うか、そして法人の規程です。
ご覧のとおり、法人の規程、扱う情報、使うサービスによって答えが変わります。具体的な運用は個別に検討する必要があるため、この記事では詳細を控えます。
お伝えしたいのは、方法ではなく、確かめる順番のほうです。
個人情報の扱いも、AIの利用も、何を確かめればよいかは整理できます。上の項目が、そのまま確認の順番になります。 「個人情報だからできない」で止めるのではなく、一つずつ確かめて、「どこまでなら適切にできるのか」を決める。そこから始められます。
そして、これは慎重さを手放す話ではありません。慎重であることは、利用者を守るために身につけてきたものです。確かめる手順を持てば、慎重なまま前に進めます。
AIを使うことも、録音することも、目的ではありません。目的は、現場が、自分たちで仕事の仕方を決めていけることです。道具は、そのあとの話です。
第2回のまとめ
- 全部を一度に変えない。職員同士が情報を持ち寄り、次の行動を考える場に絞る
- この流れは、AIがなくても回る。 順番としては、仕事の流れを決めるほうが先
- 様式を作る前に、法人として何を残したいのかを決める
- AIには目的と必要な項目を指定する。「推測で補わない」「事実と解釈を分ける」「分からないものは分からないと書く」を入れ、確認する担当を決める(言っていないことの混入/決定と案の区別/担当と期限/事実と推測)
- 記録の基準は、きれいな文章かどうかではなく、次の勤務者が再現できるか、あとで比べられるか
- 次の会議は、前回の記録から始める。 ただし「試せませんでした」を追及の材料にしない。できなかった理由を一緒に見直す
- フィードバックは文章の指導ではなく、観察と振り返りの指導
- 指導の前に、時間・入力環境・重複・理解度を確かめる。そこまで確かめたうえで、それでもやらないことには個別に指導する
次回予告
第3回:記録を、人材育成の道具に変える
記録が使われるようになると、記録の改善から始めた取り組みが、人を育てる場にもなっていきます。
第3回では、職員の観察力・言語化する力、そしてリーダーの質問力をどう育てるかをお話しします。リーダー自身をどう支えるか、管理者が記録から「育ち」をどう読み取るか(そして記録だけでは判断しない理由)にも触れます。
次回までに、一つだけ試してみてください
次の会議の冒頭を、前回の記録の確認から始めてみてください。 「前回、これを試すことになっていました。どうでしたか?」——この一言だけで構いません。「できませんでした」と返ってきたときに、理由を一緒に見直せるか。そこを試してから第3回をお読みください。
今回の内容について
記録項目の設計も、AIへの指示文も、確認の工程も、法人によって中身が変わります。扱っている記録も、会議の持ち方も、使えるツールも違うからです。
この記事に書いたものは、一つの形にすぎません。お使いの様式や会議の流れに合わせて組み替えることはできます。
まとまっていなくて大丈夫です。言葉にならないモヤモヤのまま、お聞かせください。
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